top of page

2025年7月第2週の編集人コメント

 

今週もAI関連の話題が目立った。表題に「AI」と記されていない記事でさえ、その多くが何らかの形でAIに言及している。まるで日経新聞が『米国大統領トランプ』の記事で紙面を埋め尽くすかのようだ。

とりわけ以下の3つの記事についてコメントしておきたい:

 

  • 「2. 旅行会社、レジリエンス構築4つの方法」

  • 「3. ホテル経営者のためのAI:HITEC 2025で聞いた話」

  • 「12. 旅行者、観光旅行計画でますますAI使用」

 

「2. 旅行会社、レジリエンス構築4つの方法

旅行業界が次に備えるべき4つのレジリエンス強化策が紹介されている。パンデミックを経た旅行業界は、いま再び経済不安や顧客期待の変化といった新たな不確実性に直面している。コスト増・需要減のなかで、単なるコスト削減では持続可能性がなく、「変化への適応力=レジリエンスの再構築」が必要とされている。

  1. 業務(オペレーショナル)
     デジタルツインや自動化で柔軟に対応。例:空港運用、ホテルの省力化。

  2. 収益(コマーシャル)
     AIで需要や顧客感情を分析。動的価格や新たな収益源(例:体験)に対応。

  3. 人材(ピープル)
     感情モニタリングやAI活用で働きやすさと生産性を向上。94%が人材戦略をAI時代に対応済。

  4. 技術(テクノロジー)
     自律型AIエージェントで予約や業務を最適化。クラウド主権やセキュリティの強化も課題。

​(レジリエンスとは、困難や逆境に直面した際に、それを乗り越え回復する力)

 

記事では、AIが価格設定や業務効率だけでなく、人材育成やセキュリティ強化にも活用されている点を指摘している。今後は「変化に耐える力」ではなく、「変化に合わせて自らを変える力」が重要だという主張である。

しかし、このAccentureの記事では、旅行業が直面するAI主導の「流通革命」——すなわち、旅行商品が“AIエージェント経由”で売買されるという構造転換——には触れられていない。
真に必要なレジリエンスとは、「AIに選ばれる存在」になるための再設計=流通上の生存戦略ではないのだろうか。

“流通革命”に言及すべき理由は、以下の構造的変化がすでに進行しているからである:

  • AIエージェントによる「検索不要な旅行購入」(例:Google Gemini、ChatGPT、OTAアシスタント)

  • 従来の予約サイト(OTA)を介さず、AIが直販を選ぶルート形成

  • 旅行者の「行動履歴×文脈」に基づく自動提案と即時取引

つまり、「どのチャネルで誰が売るか」が根底から変わり始めている。流通革命に対するレジリエンスについても、この記事では触れて欲しかった。

 

「3. ホテル経営者のためのAI:HITEC 2025で聞いた話

AIはHITEC 2025で最大のトピックであったが、ホテル側は導入に慎重な姿勢を示している。その背景には「過去の技術バズワードへの懐疑心」や、「AI理解の不足・準備不足」があるという。

ホテル業界におけるAI導入は、本質的には“新しいスタッフを迎える”ことに近い。小さな成功体験の積み重ねと、正確なデータ整備が鍵になるという指摘は重要である。

そして、次のようなもっと重要な指摘もある:

「・・・この調査結果を考慮して、BCGは、ジェネレーティブAIが『従来のアグリゲーターを迂回』してユーザーを関連するオファーに誘導することで、実際に『旅行会社に“実存的な脅威”をもたらす』可能性があると予測しました。
『変化のペースは依然として不確実ですが、企業は適応し始めるべきです』と報告書は述べています・・・」

さらに、Sabre Hospitality社長のScott Wilsonはこう述べている:

「AIが『画期的な変化』をもたらすという一般的な理解があります。これはいくら強調してもしすぎることはありません。おそらくこれは、90年代にインターネットが大きなものになって以来、ホテル経営者がゲストの関与について考える方法において最も変革的な変化です」

 

これほどの強調がなされているにもかかわらず、業界からは今ひとつ“危機感”が感じられないのはなぜか。

  • 既存構造の中で事業継続ができていることへの安心感

  • 「ツーリズムは人と人との体験」という観念の根強さ

  • 過去の成功体験への執着

  • 不都合な事実を直視したくないという感情

こうした心理が業界に蔓延しているのではないか。

検索される時代は終わり、AIに指名される時代が始まっている。

 

「12. 旅行者、観光旅行計画でますますAI使用

世界の旅行者がレジャー旅行計画にAIを活用し始めている。米・英・独・仏ではGenAIの利用率が数ポイント上昇しているが、AIの回答を「完全に信頼している」と回答したのは3割未満である。

それでも、旅行サイトにGenAIチャットを期待する声は多く、約1/3の旅行者が「AIに予約を代行してほしい」と回答している。

 

この記事は、以下の2点を強調している:

  • AIと人間のバランス設計の重要性

  • AI時代に“見つけられる存在”になることの必要性

もはやAI導入は差別化の手段ではなく、「企業としての“生存条件」となっている。

▪️

​​​

bottom of page