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11月14日 NEW

目次

13. PhocusWire の今週のトラベルテック記事のまとめ

14. Apple、米旅券情報の電子ID立上げ

15. HomeToGo、Interhome 統合順調と語る

16. データの軌跡:パイロット、コパイロット、オートパイロット、AIパイロット
 

11月10日

1. Hot 25 Travel Startups for 2026

2. Marriott、デフォルトで Sonder ライセンス契約終了

11月11日

3. Klook、米国上場に向けて始動

4. Amenitiz、航空商品成長と市場拡大で4,500万ドル調達

5. 旅行の生成AI的決済の未来

11月12日

6. ホテルとOTA、チャネルからゲストへ焦点シフト

7. Grab、リモート運転技術会社 Vay に6,000万ドル投資

8. データサイロからAIインサイトへの航空会社の旅の追跡

11月13日

9. HOT 25 TRAVEL STARTUPS FOR 2026: BIZTRIP.AI

10. Priceline CEO Brett Keller 辞任

11. Amex GBT、エージェンティックAIで Agentia アップグレード

12. 海でのAI:クルーズラインがジェネレーティブ技術を実用的ツールに変える方法

2025年 11月第2週 編集人コメント

 

Booking Holdingsの第3四半期は、増収増益の好決算となった。

ハイライト

  • 代替宿泊(Alternative Accommodation)
    2025年第3四半期の代替宿泊(AA)宿泊室数は前年比約10%増加し、全体構成比は36%へ上昇。掲載件数(listings)も前年比10%増となった。

  • モバイル予約
    直近12か月(TTM)におけるモバイルアプリ経由の予約構成比は50%台半ばに達し、2024年第3四半期(50%台前半)から上昇。

  • 直販(Direct Sales)
    直近12か月におけるB2C(Business-to-Consumer)直販構成比は60%台半ばで、前年同期(60%台前半)から上昇。アプリ利用比率とともに直販チャネルの強化が進む。

  • コネクテッド・トリップ(Connected Trip)
    Booking.com全体で「宿泊・交通・体験を一体化したConnected Tripモデル」の推進を強調。AI活用により、予約体験のシームレス化・パーソナライズ化を進めている。

 

損益計算書(単位:US$ Million)

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貸借対照表・キャッシュフロー

  • 第3四半期に、株主還元として自社株買い約7億ドルを実施し、配当3億ドルを支払った。
    さらに高利付債の償還に約15億ドルを充当。

  • 営業キャッシュフローおよびフリーキャッシュフローはいずれもプラス。
    年初からの累計(YTD)でフリーキャッシュフロー約77億ドル(前年比+6%)。
    旅行需給の回復とともに、キャッシュ創出力が維持されている点は評価できる。

  • 2025年2月、取締役会は200億ドル規模の新たな自社株買いプログラムを承認。
    今四半期末時点で累計180億ドルの買戻しを実施済み。

  • キャッシュ&有価証券残高は約172億ドル(9月30日時点)と潤沢であり、株主還元・債務償還を両立しつつ、財務の健全性と流動性を保っている。
     

AIとトラベルテック戦略

決算では「Generative AI」「AI統合」「パーソナライズされたConnected Trip体験」が主要テーマとして取り上げられた。同社はOpenAIとのテストプログラムを進めており、AIを通じて「顧客とサプライヤー双方に価値を提供する」仕組みを構築中。

旅行流通の観点では、AIが「宿泊・交通・体験」を統合する中核基盤となっており、マーチャントモデルと組み合わせることで、より多面的な収益機会を生み出している。
検索・レコメンド・チャットボット・リスティング最適化といったAI機能が、効率化・差別化・付加価値化を支えている。実際、報道でも「AIが予約増を後押しした」との評価が見られる。


マーチャント販売の進展

Booking Holdingsのマーチャント販売(自社決済)モデルは明らかに加速。
マーチャント・グロスブッキング比率は61%→68%へ上昇し、前年同期比+26%の成長を記録した。
構造転換が進む一方、マージン圧・運転資本リスク・返金・キャンセル対応などの負荷も高まっており、キャッシュフロー管理の巧拙が問われる段階にある。

 

総評

この決算は、旅行流通・トラベルテック両面で以下の示唆を与える。

  1. 「量」から「価値」への転換期
    Bookingは泊数・予約数の拡大フェーズを超え、今後は「予約単価」「ロイヤルティ」「直販率」「代替宿泊やライフスタイル領域拡大」など、価値創造フェーズへ移行している。

  2. チャネル構造の複雑化と最適化
    メタサーチ、直販、サブスクリプション、AI旅行プランニングの台頭により、OTAは“仲介”から“ソリューション提供者”へ変貌中。今回の決算でも直販比率・アプリ利用率上昇が確認され、チャネル戦略の成果が表れている。

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11月3日

1. 地上輸送会社2社、数百万ドル調達

2. AIネイティブ時代、旅行業界がAI駆動会社から学べる事

3. 今どこに居る?Hot 25 Travel Startups for 2025

11月4日

4. Juniper Group、トラベルテック最新買収は Inspiretec

5. TravelPerk が Perk にリブランド、従業員の非中核業務削減を狙う

6. 迫り来るAIによるチャネル爆発が、独立系の勝機となり得る理由

11月5日

7. Trivago、成長継続を報告し規律あるメーケティング継続

8. Sabre 第3四半期、流通予約増加で増収決算

9. MCPの旅行再構築方法

11月6日 

10. インド旅行創設者2人、彼らの旅、ライバル、業界未来を語る

11. Tripadvisor、人員削減確認、リストラして体験に焦点

11月7日

12. 今週の PhocusWire トラベルテック記事のまとめ

13. Amadeus 第3四半期増収

14. Airbnb Experiences 予約の半分近く、宿泊に無関係

15. Expedia Group、OpenAI 提携戦略を説明しB2Bの強みをハイライト

2025年10月第5週の編集人コメント

8. 3人のイノベーターが語る、再発明、AI、メタサーチの第二幕

かつてオンライン旅行業界を変革したSkyscannerのGareth Williams、WegoのRoss Veitch、Travel.jpのKei Shibataが、シンガポールでメタサーチの過去と未来を語った。Skyscannerは創業者の個人的な不便から生まれ、Wegoは自らOTA機能を持つハイブリッド型へ進化し、Travel.jpはLINE提携など挑戦と試行錯誤を重ねてきた。3人はGoogle依存の限界を認めつつ、AIがもたらす「第2のメタサーチ」に期待を寄せた。AIは旅行者の意図を理解し、真のパーソナルアシスタントとして機能する可能性を秘めていると語り、決済革新やテーマ旅行など新たな価値創造の必要性を示した。彼らは、2045年には旅行が人生の中心、世界最大の産業になると展望する。

しかし、エージェンティックAIの時代には、従来のように「メタで比較し、OTAで予約する」という分業は溶けていくはずだ。AIが情報提示から予約・体験まで一気通貫で担えるようになれば、メタとOTAという産業構造そのものが再定義される。ユーザーにとって重要なのは「どのAIが自分の嗜好・条件・履歴を理解し、信頼できる旅を設計してくれるか」という点に変わる。競争の軸は“Meta vs OTA”から“AI vs AI”へ移行し、企業ブランドではなく、どのAIエージェントがユーザーとの信頼関係を獲得できるかが問われる。旅行流通は「プラットフォームの時代」から「エージェントの時代」へ向かっている。

10. メッセージ受信:旅行業界におけるWhatsAppの役割

この記事でも、この「エージェントの時代」に向かう流れが、WhatsAppを通じて具体的に見えはじめている。ポイントは、SNSが単なる広告や情報拡散の場ではなく、AI旅行エージェントがユーザーと最初につながる“入り口”になりつつあるということだ。

旅行者はもはや検索サイトやOTAにアクセスする前に、日常的に使っているWhatsAppやLINEのようなメッセージアプリ上で旅の相談を始める。そこで交わされる会話は、AIがユーザーの嗜好・履歴・状況を理解するための生きたデータとなり、そのまま提案・予約・変更対応へと接続される。つまりSNSは、情報発信の媒体ではなく、AIが「旅の伴走者」として入り込む生活動線そのものに変わりつつある。

旅行会社やOTAにとって重要なのは、Google検索で顧客を奪い合うことではなく、ユーザーの生活圏であるWhatsAppやLINEの中で、AIが自然に対話を開始し、信頼関係を築けるかどうかだ。ここでも主役はブランドではなく、「どのAIが旅の代理人として選ばれるか」である。SNSはその接点であり、旅行流通の「入口」が再発明されつつある現場なのだ。

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10月27日

1. 今どこにいる? Hot 25 Travel Startups for 2024

2. 1.6兆ドルから1.8兆ドル:2027年世界良好市場成長、シフト、デジタル

3. 銀行と航空の消費者ロイヤルティ戦争継続

10月28日

4. 目的地が異なる:Z世代の旅行計画方法

5. UberとWeRide、サウジでロボタクシー展開

6. トラベルテック起業家Bobby Healy、もし別の人生だったら何を作るか?

10月29日

7. Grab、May Mobility 提携で東南アジアにロボタクシー導入

8. Mews、DataChat 買収でエージェンティックAI導入

9. MakeMyTrip、堅調な国内国際需要とAI更新を報告

10. Booking Holdings、国内増収報告し OpenAI アプリ初期段階考察発表

10月30日

11. 再発明、AI、メタサーチの第二幕に関する3人のイノベーター

12. 旅行管理スペシャリスト Navan が NASDAQ 上場

13. メッセージ受信:旅行業界における WhatsApp の役割

10月31日

14. トラベルテックプロバイダーDCS、Abingdon Software Groupが買収

15. 中東旅行業界:成長とイノベーションで未来を形作る

16. 今週のPhocusWireトラベルテック記事のまとめ

2025年10月第4週の編集人コメント

以下の3つについてコメントしたい。

7. Google、Google MapsにGemini API導入 

8. AI新ゲートキーパー、Booking.comとExpediaの将来旅行ハイジャック方法

16. 米国プロパティマネージャー60%、将来不安なるも収益増加予測

 

 

7. Google、Google MapsにGemini API導入

Googleは、AI搭載のGemini APIにGoogle Maps機能を統合した。これにより開発者は、2億5,000万件以上の地点データを活用し、位置情報に基づく高度なAIアプリを構築できるようになる。GeminiとGoogle Mapsを連携させることで、営業時間・住所・評価などのリアルタイム情報を自然言語で取得でき、Google Searchとの併用によって回答精度も大幅に向上する。

旅行業界関係者からは歓迎の声が多い。Inspire LimitlessのMarc Mekki氏は「Googleが旅行発見・計画のためのAIオペレーティングシステムを構築している」と述べ、MagpieのChristian Watts氏は「Google Mapsは目的地における支配的存在」と指摘。TourpreneurのPeter Syme氏も「Geminiはユーザーの意図や行動を推測できるため、旅行分野で圧倒的優位に立つ」と評価している。

この発表は、OpenAIによるChatGPTのアプリ内アプリ機能(ExpediaやBooking.comが参加)や、ExpediaとPerplexityによるAIブラウザ「Comet」の発表など、旅行×AIの競争が加速する中での動きである。

Gemini APIへのGoogle Maps統合により、Googleが旅行分野で優位に立つのは確かだ。Mapsの2億5,000万件を超える膨大な地理空間データを“Grounding”として活用できる点は、他社にない強みといえる。
ただし、「旅行業界のあらゆる用途」や「ユーザー体験のすべて」において圧倒的に勝っていると断言するには、まだ十分なエビデンスは揃っていないだろう。

 

8. AI新ゲートキーパー、Booking.comとExpediaの将来旅行ハイジャック方法

AI時代の新たな“ゲートキーパー”として、Booking.comとExpediaが旅行業界の主導権を握りつつある。
OpenAIのアプリマーケット開始直後、この2社はChatGPT内に自社機能を統合し、旅行者の検索・比較・予約といったプロセス全体にAIを通じて入り込んでいる。これにより、独立系ホテルはAI経由でゲストへ直接リーチできず、再び手数料を支払って自社顧客へアクセスする構造が再現される懸念がある。

EUのデジタル市場法(DMA)は、GoogleやMetaなど既存の「ゲートキーパー企業」を規制しているが、ChatGPTやGemini、Perplexityといった独立AIアシスタントは対象外である。この抜け穴が放置されれば、少数のAIプラットフォームが旅行流通を独占する可能性が高い。

著者は、

  • AIアシスタントにもDMAと同等の規制を拡張し、

  • ホテルや事業者が、公平に掲載される仕組み(透明な順位表示・データアクセス・切替の自由)を義務化すべきだと主張している。

結論として、「誰がAIのインターフェースを支配するか」が旅行産業の未来を決める。「今行動しなければ、ホテルは再び他社プラットフォームの“借家人”となる」と警鐘を鳴らしている。

 

この記事は冒頭で、「BKNGやEXPEなどの大手グローバルOTAがAI時代においても旅行業界の主導権を握りつつある」と述べている。
従来の記事の多くが、AI時代にはチャネルの多様化や直販の増加によって「OTAの覇権が揺らぐ」と論じてきたのに対し、本稿はそれとは逆の“OTA強者論”を展開している。

筆者は、ホテル・リゾート業界向けにゲストの旅程(guest journey)をホテル自身が直接掌握できるようにするAIインフラ/ダイレクト予約支援プラットフォームを提供するAgentic Hospitalityの共同創立者でありチーフAI オフィサーで、DMAのような規制をAIアシスタントにも適用してほしい立場にある。
そのため、意図的に“OTA優位論”を強調している可能性も否定できない。

 

16. 米国プロパティマネージャー60%、将来不安なるも収益増加予測

米国の短期レンタル(STR)業界では、人手不足や収益圧力など課題が続く中、約60%の物件管理者が2026年に収益の緩やかな成長を見込むと回答した。
Key Dataの調査(約43,000物件・約250名対象)によると、主要課題は運営・人材(73%)と規制対応(43%)であり、特に許可制度の厳格化や宿泊税の上昇が懸念されている。

管理者の優先事項は①運営効率、②マーケティング、③顧客体験、④ポートフォリオ管理、⑤テクノロジーの順であり、95%がPMS(物件管理システム)を導入している。PMSは運営の「中核的インフラ」となっている。

OTA(オンライン旅行代理店)への依存は、「横ばい」が67%、「減らす」が19%、「増やす」が11%。依存度は依然として高いが、拡大傾向は見られない。主要利用先はVrbo(97%)、Airbnb(90%)、Booking.com(73%)。
業界全体としては「拡大より効率化」を重視し、厳しい環境下でも持続的で安定した成長を目指している。

気になったのはOTA依存の部分である。報告書では「OTAへの依存は高いが拡大していない」としつつも、「11%が依存を増やす」としている点から、依然としてOTAの影響力は強いと読める。
一方で「直接予約への多様化が徐々に進んでいる」とも記されており、これは一見矛盾しているように見える。
しかし実際には、OTA依存と直販拡大は対立ではなく“両立期”にあると捉えるのが正確だろう。
OTAは依然として主要チャネルでありながら、AIとデータ分析の活用によって直販チャネルが少しずつ成長している。
現在の流れは“脱OTA”ではなく、“マルチチャネル化”の初期段階にあると見るのが妥当だ。

​▪️

10月20日

1. デルタ航空、慎重なNDC・AI導入方針

2. 法人旅行業界、AIをどう考えるべきか

3. 欧州胃委員会ツーリズム戦略がフォーカスする3つの柱

4. Hot 25 Travel Startups for 2023は、今どうしている?

10月21日

5. Phocuswright、2025年Philip C. Wolf記念奨学金受賞者発表

6. Airbnb、Experiences用ソーシャルツール追加とホスト能力更新

7. Google、Google MapsにGemini API導入

8. AI新ゲートキーパー、Booking.comとExpediaの将来旅行ハイジャック方法

10月22日

9. 旅行が最優先ではないとき:経済的負担が消費者行動をどう変えているか

10. Hostelworld、OccasionGenius買収でソーシャル戦略強化

11. Rapid Fire インタビュー:韓国 Yanolja の Jeff Kim

10月23日

12. Grab、第三者提携アプリ導入

13. AI検索予約可能を見据え、

10月24日

14. 今週のPhocusWireトラベルテック記事のまとめ

15. 年末業績押し上げに、ホテル活用の隠れ収益ハック

16. 米国プロパティマネージャー60%、将来不安なるも収益増加予測

17. Trip.com COO Xing Xiong、AI時代を語る

ホテルはライブのChatGPT推進

2025年10月第3週

​​編集人コメントは、お休みさせていただきました。

10月13日

1. AIエージェントが断片化さホスピタリティ技術で不足している理由と、MCPがこれをどのように修正するか

2. 次世代のアジア旅行:信頼、経験、そして来るAIの波

3. 米OTAを進化させる5つのトレンド

10月14日

4. 旅行におけるAI主導コンテンツ作成による収益加速

5. Revolut、Swifty買収でAIコンシェルジュ開発

6. Arbio、3,600万ドル調達で賃貸管理プラットフォーム展開拡大

10月15日

7. アメリカン航空、生成AIツール立上げ

8. Walkway、プレシード165万ドル調達

9. 生成AI、旅行における音声テック再革新10月16日

10月16日

10. Kayak、旅行検索にAIモード展開

11. Mindtrip、旅行インスピレーションと組織のためのAI活用ツール立上げ

12. 航空リーダーたち、小売の進捗状況とAIのユースケース語る10月17日

10月17日

13. 今週のPhocusWireトラベルテック記事のまとめ

14. HotelPort、戦略イニシアティブで150万ドル調達

15. BNPLプロバイダーUpgrade、1億6,500万ドル調達

16. デルタ航空、NDCとAIの慎重な取組み

10月6日の週の1週間、編集人の都合により休刊させていただきました。

2025年9月第5週と10月第1週の編集人コメント

 

「4. AI時代、体験が本物のプロダクト」は、AIが普及し知能そのものが「インフラ」化する時代、競争優位の源泉はもはや技術ではなく「体験」に移っているという論考である。

巨大言語モデル(LLM)はオープン化と低コスト化が進み、差別化は著しく難しくなった。AIが誰でも使える“公共財” ― すなわちコモディティとなる中で、鍵を握るのはユーザーがどう感じ、どんな体験を得られるかである。

優れた体験を生む要素として、著者は次の三点を挙げている。
① インターフェースの進化:ChatGPTやCursorのように、同じ基盤技術でも直感的で使いやすいUIが成功を左右する。

② 記憶によるパーソナライズ:AIがユーザーの嗜好や履歴を学び、先回りして提案する“記憶型UX”が新たな価値を生む。

③ エージェント化:AIが提案だけでなく、予約や購入、スケジュール管理まで自動実行する「行動主体」として進化する。

結論として、これからの時代に勝つのは最良のモデルを持つ企業ではなく、ユーザーに「理解され、支えられ、安心できる」と感じさせる体験を提供できる企業である。

言い換えれば、AI時代の真の“製品”は体験そのものである。

当初、この「テクノロジーが差別化要因ではなくなった」という主張には、正直なところ違和感を覚えた。特に“眠れる30年”を経た日本では、依然として「技術立国の再生」や「イノベーションによる競争力回復」が政策の柱とされており、「技術がコモディティ化した」と言われても簡単には受け入れがたい。

 

しかし再読してみると、著者のR. Kumar(インドの旅行テクノロジー企業Ixigoのグループ共同CEO)が言う「テクノロジーが差別化要因ではない」とは、技術が不要になったという意味ではなく、基盤技術 ― とりわけAIの知能部分 ― が誰でも使える共通インフラとなったという指摘である。

つまりここで言う「技術のコモディティ化」とは、AIという“知能”が電気やインターネットのような汎用インフラに変わったという意味だ。

AIがインフラ化することで、旅行流通の構造は根底から変わり始めている。

かつてOTA(オンライン旅行代理店)やメタサーチは、検索アルゴリズムや在庫接続の最適化によって優位を築いた。しかし、生成AIとエージェントAIの普及によって、その優位は急速に薄れている。AIが旅程設計・予約・決済・サポートを自律的に行う時代において、ユーザーはもはや「どのサイトで予約するか」を意識しない。「どのAIに任せるか」が意思決定の中心になる。

 

この構造変化こそ、PhocusWireが指摘する「体験が新たなモート(防御壁)になる」現象の旅行版である。
すでにHopper、Expedia、Booking.comなどは生成AIを活用したパーソナルアシスタントを実装している。
これらのAIは単なる検索補助ではなく、ユーザーの嗜好・予算・過去の行動を記憶し、“次に何をすべきか”を提案する存在へと進化している。

一方、中国のFliggy(アリババ系)やTrip.com、百度系のErnie Botも、同等レベルのAI機能を自社アプリに統合し、圧倒的なスピードとコスト効率で展開している。

 

AIモデルの性能差が消える中で、勝敗を分けるのは「どの国が、どのプラットフォームが、最もユーザー中心の体験を再設計できるか」である。

将来の旅行者は「検索する」よりも「話しかける」。

「いつ東京に行くのが安い?」と尋ねれば、AIが航空・ホテル・交通・為替・混雑予測を統合し、最適な旅程を提案する。その瞬間、旅行商品の価値は“検索順位”でも“ブランド名”でもなく、会話体験の快適さと信頼性に置き換わる。

 

AIが「旅行流通の顔」となるのだ。

この流れの中で、OTAや航空会社、ホテルチェーンが生き残るためには、「AIを導入する」ことではなく、“AIを介してどんな体験を提供するか”を定義し直す必要がある。予約の効率化ではなく、滞在前後の関係性をどう深めるか。個人の好みをどう記憶し、次の旅へつなげるか。それが新しいロイヤルティ(忠誠心)の源泉になる。

AIコモディティ化の時代、旅行流通の勝者はもはや“最安値を見つける企業”ではない。

 

ユーザーに「自分をわかってくれている」と感じさせる企業である。

AIが知能を提供し、人間が体験を設計する ― その協働こそが、ポストOTA時代の旅行ビジネスを形づくる。

体験設計は、旅行企業の経営戦略の中核そのものになる。すなわち、「パーソナルな旅行体験」を、さらに一歩進めた“ハイパーパーソナルな旅行体験”を、提供できるかどうか ― そこに企業の優勝劣敗がかかっている。

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9月29日

1. Speaker Alert: Bryan Batista of Skyscanner

2. 中東旅行ブームを牽引する7つの強力なシフト

3. TikTok、旅行広告ソリューション立上げ

4. AI時代、体験が本物の商品

9月30日

5. ブランドマーケターが旅行者の進化する考え方に適応する方法

6. ニューヨーク大学 Richie Karabuurun とのクイックQ&A

7. ルフトハンザグループ、AIによる合理化で2030年までに4,000人カット

8. Mews、Flexkeeping 買収でハウスキーピングテック獲得

9. シニア旅行のトレンド - テクノロジーに適応し、コミュニティを見つける

10月1日

10. Speaker Alert: Rob Ransom of Booking Holdings

11. Hospitable、ユーザーと従業員から150満ドル調達動向

12. HTS、旅行販売者向けAI駆動サポートツール追加

13. 第3四半期の旅行新興企業資金調達動向

10月2日

14. クイックQ&A: KayakのPau; Jacobs

15. 航空会社、イノベーション感覚を研ぎ澄ましている

16. テック企業買収 Thoma Bravo、PROS 買収後の計画

17. SEOからGEO、ホテルはデジタル発見の未来に直面

10月3日

18. Speaker Alert: Mark Mahaney of Evercore

19.今週の  PhocusWire のトラベルテック記事のまとめ

20. RateGain、2億5千万ドルでSojern買収

21. Pacaso、高級レンタルの共同所有プラットフォームに7,250万ドル確保

22. ホテルチェーンがAI 戦略で苦労、独立系は早いROI獲得

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