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2025年 6月第5週〜7月第1週の編集人コメント

 

「6. 航空会社顧客エンゲージメント最適化:全タッチポイントでパートナー統合」の記事の要約は次のとおりである。
 

航空会社は旅全体を通じた顧客体験の向上に注力しており、各タッチポイントで多様なパートナーと連携することが重要とされている。予約前から到着後まで、技術とサービスの連携によって利便性を高めることで、付帯収入(アンシラリー)やロイヤルティ向上にもつながる。成功の鍵は、革新性と顧客志向を持つパートナー戦略にあるという。

さらに、いわゆる「旅マエ・旅ナカ・旅アト」を、ジャーニーマップ上の「旅行検討→予約→出発前→空港→機内→到着後」といった6つの主要段階に区分し、それぞれの段階における体験最適化が重要だとしている。その実現には、OTA、空港、通信、ケータリング、保険、荷物配送など、多様な業種との連携が不可欠であると述べている。

しかし、業界で最も技術的負債(technical debt)が大きい航空会社を取り上げ、顧客中心の変革を説くのは本当に妥当なのだろうか。
IATAが推進する「リテール革命」とは、実態としてはOfferとOrderを軸とするシステム刷新が中心であり、PhocusWireの記事が言及するようなマーケティング視点からのビジネスモデル改革は、優先順位としては後回しにされているように見える。1970年代に開発されたレガシーの予約システム(PSS:Passenger Service System)は、ATPCO、GDS、BSP、PNR、EMD、ETなどに分断されており、柔軟なUXやリアルタイム対応に不向きである。この構造の見直しと、それに伴うGDSフィーなどの流通経費削減が、まずもって狙いとされている。

そもそも航空会社は、オンラインWebサイトへのアクセスが非常に多いことで知られ、さらに航空券の購入が旅行者のコンシューマージャーニーの起点となることが多いため、アンシラリー販売においては他業種にない優位性を持つ。加えて、IATA加盟航空会社が300社程度と競争が比較的限定されていることもあり、オンライン直販比率も高い。こうした背景を考えると、「PRとペルソナが重要だ」といった顧客中心主義的マーケティングの主張は、必ずしも腑に落ちるものではない。今求められているのは、何よりもまず、遅れたレガシーシステムの抜本的な刷新であるはずだ。

とはいえ、PhocusWireが指摘するように、顧客体験の深化やロイヤルティの強化、さらには付帯収入の拡大といった観点から見れば、ペルソナ設計やブランド価値に基づくPRの役割にも一定の意義はある。特に競争が激化する市場や、若年層を中心とした新しい旅行者層においては、企業のストーリーテリングや共感を生む発信が差別化の要因となる可能性はある。
結局のところ、レガシー刷新は最優先課題であるにしても、それだけでは顧客の心をとらえることは難しい。顧客体験と企業価値の向上には、システムとブランド戦略の両輪が必要なのだ。

結局のところ、レガシー刷新は最優先課題であるにしても、それだけでは顧客の心をとらえることは難しい。顧客体験の向上と企業価値の最大化を実現するためには、システム基盤の近代化に加え、この記事が指摘する旅全体を見通した設計思想や組織横断的なアプローチが不可欠であるということなのだろう。

 

 

この他「20. SEOは去った:旅行マーケティングがどのように変化するか」に注目したい。

生成AIの登場により、従来のSEOは効果を失いつつあり、旅行業界もその現実に直面している。今後はAIエージェントが新たな集客チャネルになる可能性があり、企業はその準備が必要だと言っている。オーガニック検索からの流入が減る一方で、AIの回答に「どのブランドが取り上げられるか」が重要になる。広告の焦点もキーワードではなく「ユーザーの意図」や「ペルソナ」へとシフトしつつある。

Googleもこの変化に対応しており、AIによる検索結果(AI Overviews)にもすでにスポンサーリンクを挿入。今後も有料検索(Paid Search)は形を変えて残り続けると見られており、マーケターは広告戦略の再設計を迫られている。

 

以前PhocusWire記事が触れていたSEOの代替「GEO(Generative Engine Optimization)」については、一言も言及されていない。GEOはむしろ「具体的対応策」に分類される技術論であり、本記事の全体的視座とは若干異なるためなのだろう。それに、GEOは業界標準のマーケティング戦略としてはまだ未成熟の段階であるためなのだろうか。

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