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 2025 年 7月第5週の編集人コメント

7月30日の「16. 旅行幹部たちが語る『インタレストメディア』」の台頭」は、たいへん興味深い内容だった。正直に言えば、「インタレストメディア」という言葉を初めて聞き、すぐには意味が理解できなかった。調べてみると、「インタレストメディアとは、特定の興味や関心を持つユーザーに焦点を当てたメディア。特定の趣味や専門分野に特化したウェブサイトやブログ、SNSアカウントなどが該当する」とある。

 

要するに、その人の興味関心にぴったり合った、個人向けのコンテンツを配信するメディアのことだ。旅行の世界では、「一生の思い出となるパーソナルな体験」を提案することが永遠のテーマであり、業界としても長年取り組んできた課題だが、実際にはなかなか実現できていない。

 

記事でも指摘されているように、近年はSNSを旅行販売に活用する機会が増えている。とりわけInstagramやTikTokといった視覚的インパクトの強いプラットフォームは、旅行との相性が良く、今後はこれらをインタレストメディアとして積極的に活用すべきだという主張には納得感がある。

 

記事中で印象に残った発言がいくつかある。

「“誰とつながっているか”より、“何に興味があるか”がアルゴリズムを通じて提示される時代に入っている」
「今はフォロワー数より“ビュー数”が重要だ」

また、「インタレストメディア」は企業側が制御できない“プッシュ型”であるという指摘にも考えさせられた。「プッシュ型」とは、ユーザーが検索して能動的に情報を探す “プル型” とは違い、プラットフォーマー側のアルゴリズムが、ユーザーの関心に応じて自動的に情報を “押し出してくるプッシュ型” の仕組みを意味する。

 

旅行業界は依然としてソーシャルメディアの活用が遅れており、「この現実に目を覚ますべきだ」という警告には耳を傾ける必要があるだろう。

とくに注目すべきは、こうしたインタレストメディアの台頭により、InstagramやTikTok、YouTubeといったプラットフォーマーたちが、旅行業の “新たな競合” かつ“ 新たな流通チャネル” になりつつあるという事実だ。
彼らは、旅行の「発見」や「動機形成」というファネルの上流を独占するだけでなく、今ではAIを使って旅行の提案や予約への誘導すら行うようになっている。すでにGoogleはAI Overviewsを通じて、宿泊や航空券の推奨を自動で表示しており、旅行代理店的な役割を担い始めている。

つまり、プラットフォーマーは、旅行会社やOTAにとって「頼れる集客媒体」であると同時に、「旅行消費を自社で完結させようとする競合プレイヤー」にもなっている。

 

旅行業界がこの変化に対応するには、単なる広告主としてではなく、アルゴリズムと共存しながら “旅の提案者” としての発信力を取り戻す必要がある。

そのためには、SNS上で保存される・共感される・共有されるような「パーソナルな旅行体験」を、自社の言葉で継続的に発信していくことが不可欠だ。

いま、旅行業界は 「誰もがアドバイザーになれる時代」に差しかかっている。インタレストメディアの世界で存在感を示すことができなければ、旅行産業の中核を他業界に明け渡すことになるかもしれない。

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