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2025年 8月第5週の編集人コメント

 

「13. JTB、Phocuswrightの親会社Northstar Group買収」

JTBは、調査会社PhocuswrightやニュースサイトPhocusWireを傘下に持つ米ノーススター・トラベル・グループを買収することで合意した。ノーススターは「Travel Weekly」「BTN」など14の旅行関連メディアやイベントブランドを展開しており、世界100万人以上の旅行業界関係者と1,500社超のサプライヤーをつなぐ。今後も現経営陣の下で独立子会社として運営され、アジア太平洋地域での事業拡大が期待される。取引額は非公表で、9月に完了予定。JTBは今回の買収を通じ、イベントや情報サービス、旅行市場のインテリジェンス分野で成長戦略を加速させる考えだ。

 

Northstarはメディア・調査・イベントを生業とする情報産業の会社である。

普通に考えれば、JTBが強化すべきは 法人旅行(TMC事業)やイベント運営(MICE)、デジタル直販チャネルの構築といった「実業」部分となるのに、そうではなくて、事業シナジーよりも「情報ビジネス」を選んだのはどうしてなのだろうか?

 

この記事は、昨年10月18日「17. 何故UberがExpediaを買収しない、Amazonがすべき」を思い出す。編集人コメントでこう書いている。『Expedia GroupをUberが買収する可能性が銀行家たちの噂話になっているらしい。しかし、総合トラベルマーケティング企業MMGYGlobalの元CEOは、Uberによる買収は、戦略的には誤りかもしれないといっている。Expediaとの統合はUberの事業とは異なる性質を持っているというのだ。技術的な統合やビジネスモデルの違いも課題となるという。そして、それよりも、AmazonがExpediaを買収する方がよっぽど良いといっている。(中略)旅行会社のコンソリデーションには、同じ旅行業を営むUberとExpediaのM&Aの方が理にかなっているように思える。それにUberのCEOである Dara Khosrowshahiは、元Expedia GroupのCEOである。直感的には、Uber + Expediaに分がありそうだ。

それよりも、日本の旅行業者による買収の方が、遅れているグローバル戦略展開には打ってつけとならないか。』

 

 

「12. TikTokとBooking.Comは旅行ファネルを「吹き飛ばした」のか?」

TikTokとBooking.comが提携し、動画視聴からホテル予約までアプリ内で完結できる仕組みを導入した。米国ユーザーの一部で試験運用が始まっており、TikTokの動画から料金・空室・レビューを確認し、そのままBooking.com経由で予約、確認通知もTikTok内で受け取れる。

この動きは「旅行ファネルを壊した」と評され、従来Google検索やOTAで始まっていた旅行探しが、TikTokというSNS上で完結する可能性を示している。若年層はすでにSNSを旅行情報源として信頼しており、動画コンテンツが直接予約につながる「ソーシャルコマース」が新たな流通チャネルとして浮上している。

一方で、ホテルにとっては露出拡大のチャンスである反面、プラットフォーム依存が強まるリスクもある。成功には「部屋」ではなく「ストーリー」を売るソーシャル対応型のマーケティングが不可欠とされ、直接予約のハードルは今後さらに高まると見られている。

 

今回のTikTokとBooking.comの提携は、先週の編集人コメント「ソーシャルコマースの未来、旅行会社採用の5つの戦略」で触れたテーマとも深くつながっている。あのとき指摘したのは、旅行会社がソーシャルコマースを取り込む際に必要となる戦略的視点――すなわち、①プラットフォーム依存のリスク管理、②クリエイターとの共創、③コンテンツと在庫の統合、④AIによるパーソナライズ、⑤顧客ロイヤルティ強化――の5点であった。

TikTokとBookingの事例は、その実践例の一つといえる。動画という強力なインスピレーションの源泉と、OTAが持つ巨大な在庫と決済機能がシームレスにつながったことで、旅行消費の「最短距離」が形成されたからだ。しかし同時に、ここに依存する宿泊事業者は「自社チャネルでどう差別化するか」という新たな課題に直面する。

つまり、旅行流通の未来像は「ソーシャルで発見し、OTAで予約する」という単純な構図には収まらない。むしろ、各プレイヤーがコンテンツ・AI・ブランドの3要素をどう組み合わせて顧客との関係を維持できるか。そこに勝敗が分かれることになるだろう。特に「コンテンツ」が重要になる、「オワコン」では勝てないのだ。

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