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8月第3週の編集人コメント

 

今週の閲覧数第6位「18. AI、最早ツールでなくて新旅行OS」の記事を読んで、本当にAIが旅行事業の中核を担うオペレーティングシステムへと進化しているのか、疑問が残った。

記事は、AIが旅行産業において「ツール」から「オペレーティングシステム(基盤)」へと移行しつつあり、それを取り入れる企業は俊敏さと競争優位を得る一方、導入を怠る企業は取り残される、という強い主張を掲げている。確かにAirbnbやBookingといった先進企業がAIを基盤に事業再構築を進めていることは事実であり、長期的にはOS化が競争力の分岐点となる可能性は大きい。

しかし、現状の産業全体を見渡すと、AIをOS的に事業全体へ組み込んでいる企業はまだ少数派である。大半の企業はチャットボットやレコメンド機能といったツール的活用にとどまっており、コスト、信頼性、組織変革の難しさといった課題から全面的な導入には慎重である。そのため、「導入しない企業は取り残される」という断言はやや誇張的であり、現段階では割り引いて受け止める必要があると考える。なお、記事の筆者は、米国でAIを活用した企業向け旅行支出最適化サービスを提供するトラベルテック企業 Oversee(旧 FairFly)の共同創業者兼CTOであり、どうしてもAIの有効性を強調する視点が色濃く表れている。

 

とはいえ、記事が示す未来像は軽視できない。AIを基盤に据えた企業はスケーラビリティやパーソナライズ能力において優位を築く可能性が高く、その差は今後拡大するだろう。この記事は「現状の実態報告」というよりも、「これからの競争軸を提示する未来宣言」として読むのが適切である。

 

 

閲覧者数第2位となった「15. 旅行エキスパートたち、PerplexityのGoogle Chrome 買収ビッド」が面白い。

AIエンジンのPerplexityが、時価総額約180億ドルとされる自社評価額の倍近い343億ドルでGoogle Chromeの買収を提案した。公約としてChromium(オープンソース基盤)への投資やデフォルト検索をGoogleのまま維持する方針を示したが、専門家の多くは「実現性は低く、むしろPRスタントの色が濃い」と見ている。もし成立すれば、検索やSEO、旅行業界に大きな影響を与える可能性があるが、Googleの競争法裁判や米政権の姿勢を踏まえると現実味は薄い。

 

AIの登場は、検索という行為そのものを根本から変えつつある。従来のようにキーワードを入力して結果一覧を得るのではなく、自然な会話を通じて幅広い問いに答えてもらう時代が訪れようとしている。そう考えると、従来の検索を前提としたChromeのような仕組みは、やがて不要になるのではないかと直感的に思ってしまう。

 

だが実際には、Googleの力は「検索90%シェア」と「ブラウザ70%シェア」という二重の支配に裏付けられている。検索では圧倒的に利用されるサービスであり、同時にブラウザを通じて「入口」を握っている。たとえAIが検索体験を大きく変えても、Chromeが世界の7割のユーザーを抱えている限り、Googleは自らのAI検索(Geminiなど)へユーザーを誘導できる。この二重支配構造こそが、Googleの優位性を簡単には崩させない要因だと感じる。

 

興味深いのは、Chromiumがオープンソースであるため、Perplexity自身も技術的にはChromeに似たブラウザを作れるという点だ。実際、同じ基盤を使ったEdgeやBraveも存在する。しかし、技術的に「作れる」ことと、世界の70%が実際に「使う」こととの間には大きな隔たりがある。これは旅行業界で「誰でも旅行予約サイトを立ち上げられるが、ExpediaやBookingのように世界中の顧客を集めるのは極めて難しい」というのと同じ構図だ。市場シェアという習慣とブランドの力が、技術以上に重要なのである。

 

そう考えると、Perplexityの買収提案は、Chromeの技術が欲しいのではなく、世界7割のユーザーという市場支配力を手に入れたいがための動きだと理解できる。Googleの競争法裁判でChrome分割案が取り沙汰されるなか、その状況を巧みに利用した広報戦略にも見える。しかし、米中対立の最中にGoogle寄りのトランプ政権がChrome分割を容認する可能性は低く、実現性は乏しいだろう。

 

結局のところ、AIによって「従来型の検索」が大きく揺らぐことは確実だが、Googleの検索90%とブラウザ70%という二重のシェアはなお強固であり、その支配力はAI時代にも容易には崩れない。むしろChromeがAI対応へと進化することで、その影響力は形を変えて生き残っていくのだろう。今回のPerplexityの動きは、そうした現実を改めて意識させるきっかけになった。

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