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5月26日の週の編集人コメント

10. 短いインタビュー:Expedia GroupのShilpa Ranganathan」で、Expedia Groupの最高製品責任者の次の発言が印象に残った。

  • お客様が全体的に素晴らしい旅行を行えるようにすることは複雑な問題であり、エコシステムと旅行業界での深いパートナーシップが必要です。旅行の旅の複数の工程にわたって旅行体験全体を提供することは困難な場合がありますが、私にとっては、世界中のサプライヤー、パートナー、広告主と深く連携し、旅行者が夢を実現するための共同ソリューションを構築するプラットフォームとして最大の機会です。

  • AIを含む新興技術は、旅行体験を変え、今から5年後、AIベースの信頼できるコンパニオンが旅行体験のすべての困難に対処し、私たち全員が旅行を楽しみ、素晴らしい思い出を作ることを可能にします。

  • 旅行業界でイノベーションが起こりうる最も興味深い場所は、物事が計画通りに進行わないときです。

  • お客様にとって最も困難な問題を最も喜ばれる方法で解決します。

  • 最高の仕事ができるチーム文化を築く。(「今年の優先事項は何ですか?」の問いに対しての発言)

 

先週紹介した記事「20. 将来の旅行AIエージェントの4つのシナリオ」では、OTA(オンライン旅行代理店)中心の視点からAIエージェントの未来を描いていた。しかし今週の「17. AIトラベルシナリオが3兆ドルのチャンスを逃す理由?」は、それに異議を唱える。旅行者が実際に旅の計画を始める場所——コミュニティやSNS——が見落とされているというのだ。

事実、旅行者の89%がSNSを通じて旅先を発見しており、OTAは「予約の場」に過ぎない。旅の始点ではなく、確認と決済の場だという主張である。

さらにこの記事は、複雑な旅程を計画するには、現在のOTAのシステムや汎用LLM(大規模言語モデル)では対応できないと指摘する。真のイノベーションは、「会話ベースの旅の夢(例:秋にパートナーと静かなヨーロッパ旅行をしたい)」をAIが読み取り、それを構造化し、実行可能な旅程に分解・再構成できる能力にある。

この課題を技術的に解決できれば、旅程そのものが高付加価値な“商品”となり、B2Bマーケットプレイスを通じて旅行会社やOTAに販売可能になる。つまりAIによる旅行業界の真の変革とは、OTAを直接的に置き換えることではなく、旅のインスピレーション段階で介入し、新たな仲介価値を生み出すことにあるという視点である。

この記事は、「OTAのディスインターミディエーション(disintermediation)=中抜きは、すぐには起こらない」とも強調している。“すぐには”という但し書きを読み落としてはならない。

とはいえ、もしAIエージェントがパーソナルでコネクテッドな旅程を構築できるようになり、その上で自ら関連する全ての予約(=トランザクション)を実行できるようになれば、OTAは中抜きされる可能性があるというのが論理的帰結となる。

本記事が「すぐには中抜きされない」とする理由は次の通り:

  • OTAは数十万のホテル、航空会社、ツアー在庫を一元管理し、価格比較・キャンセル対応・カスタマーサポートまで提供している。

  • それを支えるオペレーションとインフラは非常に複雑かつ膨大で、容易には代替できない。

つまり、OTAは当面は“中抜きされない”が、将来的には「在庫提供者」として間接的に関与するB2B的な存在に後退する可能性がある。AIエージェントに在庫や決済APIを提供する**「AIエージェント向けのサプライヤー」**になる、というのが本記事の示唆する結論だ。

主導権は、もはやUIと旅程設計を担うAIエージェント側に移行しつつある。言い換えれば、「AIエージェント主導の旅行エコシステム」が現実味を帯びてきたということであり、旅行者と業界の接点そのものが再定義されつつある。

OTAが完全に消えるとは限らない。しかし、「消費者の旅の起点」という地位から、「裏方の在庫供給者」へと押しやられる可能性が高いという認識を持つ必要がある。

「すぐには」とは、どのくらいの時間軸を想定したら良のだろうか。前出の「10.」の記事は、今から5年後と言っている。

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