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11月第5週の編集人コメント

 

以下に、(1)AIが旅行検索をどう変えるかの構造整理し、(2-1)「パーソナライズ」と(2-2)「コネクテッドトラベル」の重要性を加え、それを(3)OTA(BKNG / EXPE)の第3四半期決算と関連付け、そして最後に(4)警句:「成功は永続しない可能性がある」で完結させてみる。

 

(1) AIによる旅行検索の構造変化と、OTAの新たな位置づけ

AIの登場は、旅行検索の構造そのものを根底から組み替えている。

従来の検索体験(Before)は、ユーザーがキーワードを入力し、一覧から選び取る「能動的な探索」だった。しかしAI主導の世界(After)では、会話・文脈・パーソナライズを基盤とする“提案中心の旅” へとパラダイムが転換する。

 

AIによる旅行検索の構造変化(Before → After)

● Typing → Conversational

キーワード入力から、AIとの自然な対話を通じた旅づくりへ。

● SEO → GEO(Generative Experience Optimization)

検索エンジンに最適化する世界から、AIエージェントに“選ばれる”世界へ。

● Search → Recommendation / Discovery

ユーザーが探すのではなく、AIが好み・予算・状況を理解して“次の一手”を提示する。

● Single-turn → Multi-turn

一問一答型検索から、往復の対話プロセスによる共創型プランニングへ。

● Links → Integrated Experience

リンクの集合ではなく、AIが比較・予約・支払いまでを一気通貫でつなぐ。

● Device-based → Context-aware

「どの端末か」より、「誰と・なぜ・いつ旅するか」が判断軸となる。

● OTA(Aggregator) → AIエージェント(Orchestrator)

商品を並べる“棚”から、
複数の供給元を束ねて旅全体を自動設計する“オーケストレーター” へと役割が変わりつつある。

 

(2-1) パーソナルな旅行提案こそ、AI時代の中心軸

AI旅行の本質は、単なる検索短縮ではない。重要なのは 「旅のパーソナライズ」 である。

  • 旅行者の履歴

  • 嗜好や行動パターン

  • 旅行目的(休暇・家族・癒し・冒険)

  • 予算・日程・心理状態

こうした要素を統合し、AIが “その人の人生に合った旅行” を提案する。
従来のOTAでは到達し得なかった領域であり、AIによって初めて実現する価値である。

(2-2) コネクテッドトラベル:AI時代の OTA が目指すべきエコシステム

AIによるパーソナライズは、“旅の前・中・後”のすべての接点を統合することで一層強力になる。
これが Connected Travel(繋がった旅) の概念であり、OTAが今後生き残るための「旅行OS」的エコシステムといえる。

  • 事前の相談

  • フライト・宿泊・体験の統合予約

  • 旅程管理

  • 現地サポート

  • 変更・返金対応

  • ロイヤルティ循環

AIはこのすべてをシームレスに連結し、
“AIが旅全体を面倒見る” 世界を現実に変えつつある。

 

(3) Q3の好決算は、このAI時代の変化を最もよく反映している

実際、Booking Holdings と Expedia Group の2025年第3四半期決算を見ると、両社はすでに AI主導の旅行構造変化を先回りして取り込みつつある。

  • Booking:代替宿泊の構成比上昇、直販・アプリ経由拡大、AI統合によるパーソナライズ深化

  • Expedia:Comet・Romie・Smart Trip AI などの本格投入、B2B APIの急成長、AIによるマーケ効率改善

両社とも OpenAI とのプログラムを開始しており、
AIを 中核機能 として組み込んだ初の“OTA 2.0” 企業として市場から高く評価された。

 

(4) しかし──この成功が永続すると考えるのは早い

現時点では、BKNG も EXPE も「AI先行者利益」を存分に享受している。両社とも 2025年第3四半期で過去数年にない好決算を叩き出した。

だが、この成功が未来永劫続くと考えるのは早計だ。

AIが民主化すれば ─ 誰でも “旅行AIエージェント” を生成し、旅行事業に参入できる時代が確実に訪れる。
実際、すでにその前兆が見え始めている。

  • ソーシャルのTikTok や Instagram などが予約機能をオントップで搭載し始めた

  • スタートアップが AI旅行代理店を即時生成

  • Grab、LINE、WeChat などのスーパーアプリが「旅行OS化」

  • 航空会社・ホテルチェーンも AI を活用して直販を最適化

OTAの特権は、もはや“永続する前提”ではない。

AI新時代を OTA が生き残れるかどうかは、
“旅全体をつなぐコネクテッド・トラベルOSを構築できるか” にかかっている。

AIが旅の構造そのものを再設計する未来において、“検索結果を並べるだけ” の OTA には、もはや居場所はない。

真に競争力を持つのは、「タビマエ → タビナカ → タビアト」という旅行者の全行動をつなぎ込み(コネクテッドトラベル)、あらゆるタッチポイントを掌握する者だけだ。

OTAが「予約の終点」から脱却し、“旅を編成するオーケストレーター(AI Orchestrator)” へ変貌できるか ─ その成否が、次の10年の生死を分けることになる。

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