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2025年12月第4週の編集人コメント

 

今週の注目記事は、年末にふさわしい2025年の回顧として位置づけられる「8. 2025年のPhocusWireのトップ10ニュース」と「15. THE TOP INVESTORS IN TRAVEL TECH IN 2025」の2本である。

 

「15. THE TOP INVESTORS IN TRAVEL TECH IN 2025」は、2025年の旅行スタートアップへの資金調達が、第3四半期(3Q)までで約35億ドルにとどまり、このまま推移すれば年間でも2024年(約58億ドル)を下回る可能性が高いと伝えている。これは過去10年でも低水準となる見通しだ。

 

投資が冷え込んで見える背景には複数の要因が重なっている。高金利や地政学リスクによるマクロ不確実性、過去の過剰投資の反動によるVC全体の慎重化に加え、投資マネーがAIインフラや汎用AI、非旅行領域へと流れ、旅行特化スタートアップは明確なROIを示せなければ後回しにされやすくなっている。

一方で、2025年の有力投資家としてThayer Investment PartnersとAntlerが2年連続で首位に立ち、Y Combinator、Highgate Ventures、Kinnevikといった常連投資家も引き続き存在感を示している。大型案件としては、Hostaway、Flyr、TravelPerk、Klookなどの資金調達が挙げられる。

 

投資家の共通認識としては、旅行業界は長期的に需要が強く回復力の高い産業であり、AIについても過熱と実用の両面がある中で、誇張された案件の淘汰が進んでいるという点で一致している。今後はエージェント型AIが次の波になるとの見方が多く、中長期的には成熟市場として、成長・後期ステージを中心に投資回復を見込む声が優勢だ。

 

「8. 2025年のPhocusWireのトップ10ニュース」では、前年同様、AIが圧倒的な主軸であったことが示された。エージェント型AIによる検索・予約の進化──ChatGPTへの旅行アプリ統合、OpenAIの「Operator」、Perplexityによるホテル予約──が最大の関心を集め、旅行の発見から予約までの体験が大きく変わりつつあることが浮き彫りになった。

 

これに加え、ExpediaやBooking.comといった大手企業の組織再編やプラットフォーム戦略、OTAとホテルの関係悪化、SNS(TikTok)経由の直接予約など、流通構造の変化も重要な論点となった。航空・宿泊分野では、AIによる価格設定やロイヤルティ再設計の動きが進み、業界全体が「AI前提の体験設計」と「収益モデルの再構築」へ移行していることが、トップ10ニュースから読み取れる。

 

2025年のトップニュースを俯瞰すると、これは単なる「AI導入の年」ではなく、旅行産業の主導権がどこに移るのかをめぐる転換点だったと評価できる。AIはもはや効率化ツールではなく、顧客接点そのものを再定義する主体となりつつある。ChatGPTへのアプリ統合やPerplexity、OpenAI Operatorに象徴される動きは、検索・比較・予約という従来のファネルを解体し、「会話の場」を新たな旅行の入口に変えようとしている。

 

また、Booking.comとホテルの対立やTikTok×Booking.comの試みは、ホテル側が依存から脱却し直販や関係性強化を志向する一方で、巨大プラットフォームも新たな導線を模索している現実を映し出す。ロイヤルティプログラム再設計の議論も、ポイント経済が限界に近づいている兆候といえる。

さらに、デルタ航空の動的価格設定に代表されるように、AI活用の「質」が問われ始めた年でもあった。実運用で成果を出す事例が評価される一方、表層的・話題先行型のAI活用は淘汰されつつある。これは投資が慎重化した背景とも響き合い、実証性とROIを重視する産業成熟のサインと読むことができる。

 

総じて2025年は、AIが旅行産業の脇役から「舞台装置」へと昇格し、誰が顧客体験の起点を握るのかが明確になった年だった。今後の焦点は、新たなAI起点の体験の中で、既存プレイヤーが単なる供給者に後退するのか、それとも体験設計の主導権を奪い返せるのかにある。旅行産業は今、技術革新以上に、戦略と思想が問われる段階に入ったと言えるだろう。

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