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12月第2週の編集人コメント

 

12月10日掲載の「15. Amazon 対 Perplexity:旅行にも関係する訴訟を開始」は、今後の旅行流通を考えるうえで必読の記事である。

AmazonがPerplexityを相手取り起こした本訴訟は、AIエージェントがユーザーの代理として購買行為を行う法的権利を持つのかどうかを、初めて正面から問うものだ。「エージェンティック・コマース」をめぐる最初の本格的な司法判断であり、「プラットフォーム支配」と「エージェント主権」の衝突として位置づけることができる。

旅行業界にとっても、この裁判は単なるEC分野の争いではない。記事では、Amazonが勝訴した場合とPerplexityが勝訴した場合の双方を想定し、メタサーチ、OTA、旅行サプライヤーの競争環境がどのように変容し得るのかを整理している。

もっとも、本件はその性質上、白黒を明確につける判決にはなりにくいと見るのが現実的だ。AIエージェントをめぐる判例は存在せず、AmazonがAIを完全に排除する、あるいはPerplexityが全面的な自由を獲得するといった「0か100か」の結論は想定しにくい。むしろ裁判所は、AIの進展を止めるのではなく、一定の管理と秩序のもとに位置づける判断を下す可能性が高いのではないだろうか。

現在の流通構造そのものが、AIの進化によってこれから急速に揺さぶられる局面に入っている以上、司法が将来像を決め切ること自体が不可能とも言える。裁判が示すのは、変化を止める答えではなく、変化が起きることを前提とした最低限のルールに過ぎない。

その意味で本件は、結論以上に「問い」そのものが重要だ。AIが顧客接点を握るのか、ブランドやロイヤルティは誰の手に残るのか。これらの答えは、法廷ではなく、市場とユーザーの選択によって決まっていくことになるだろう。
そこで鍵となるのは、顧客データとロイヤルティに加え、パーソナリゼーションを軸に、人間とAIの双方に最適化された優れたユーザー体験をいかに構築できるかである。

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