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12月第1週の編集人コメント

 

今週取り上げた記事を俯瞰すると、改めてAIが旅行産業の構造そのものを静かに、しかし確実に書き換えつつあることが見えてくる。

 

Spotnana のエグゼクティブチェアマン兼 CEO、Steve Singh が指摘する「旅行者の検索方法」「コンテンツの配信方法」「エージェンティックAIを前提としたサービス提供」という三つのシフトは、法人旅行に限らず、旅行業界全体に共通する変化だと言っていいだろう。旅行はもはや “検索して選ぶ” 行為ではなく、AIとの対話を通じて設計されるプロセスへと移行しつつある。(「11. 法人旅行のおける3つの重要シフト」)

 

Phocuswright の調査が示すように、旅行計画における一般検索エンジンの利用率が51%から36%に大幅減少している。一方、生成AIは6%から15%に倍増している。Google 検索の影響力低下は、検索依存型だった旅行流通モデルの転換点を象徴している。検索の主戦場は、検索エンジンからAIへと確実に移り始めている。(「8. 旅行の新玄関口、検索が切れるにつれて、AI発見急増」)

 

一方、「15. OTA、航空会社の流通コントロールで圧迫されている」では、航空会社による直販強化が OTA を締め上げ、結果的に市場の健全性を損なうと警鐘が鳴らされている。ただし、この文章は中小 OTA の CEO によるものであり、OTA 側の視点に寄った論調である点は冷静に読む必要がある。

航空会社が直販を強化する背景には、単なる中抜き志向だけでなく、AIによる販売・マーケティングの高度化がある。需要予測、動的プライシング、パーソナライズされたオファー生成といった領域で AI が実用段階に入ったことで、航空会社は従来以上に「自前で売り切る」力を持ち始めている。LCC のモデルを見れば、AIとデジタルを前提とした直販型戦略がすでに成立していることは明らかだ。

重要なのは、仲介を減らすこと自体の是非ではない。AIをテコにした直販戦略が、市場の効率性や価格の透明性、顧客体験をどこまで高められるのか、そこが本質的な論点である。航空会社の直販化と OTA の役割変化は不可逆だが、問題は、AIを使った直販強化が、顧客にとって「選択肢が増え、価格や条件が分かりやすくなる未来」につながるのか、それとも「特定の航空会社やプラットフォームに囲い込まれ、比較しにくくなる未来」を生むのか、という点にある。

今後の旅行流通を左右するのは、AIによって誰が “検索の入口(新玄関口)”を握り、誰が “旅の設計者” になるのかだろう。AIが前提となる時代において、航空会社、OTA、そして新たなプレイヤーが、旅行流通において、どのような役割分担とバランスを築くのか、その行方を注意深く見ていく必要がある。

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