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2025年 6月第3週の編集人コメント

 

今週注目すべきは「2. Mary Meeker AI Trends Report: 旅行業界への7つのポイント」だ。Meekerといえば、1995年から2019年にかけて毎年発表していた「Internet Trends Report」で「インターネットの女王」と呼ばれた著名なベンチャーキャピタリスト。今回のレポートはそれ以来、6年ぶりの復帰作である。

彼女の新レポートには、旅行業界への影響として次の7項目が挙げられている:

  1. 検索は変化している(Search is changing)

  2. ホスピタリティの自動化(Automation in hospitality)

  3. エージェント時代(The Agentic era)

  4. 支配的な立場にある主要OTA?(Major OTAs in a dominant position?)

  5. Z世代へのマーケティング(Marketing to Gen Z)

  6. 自律運転車(Autonomous cars)

  7. サイバーセキュリティのリスク(Cybersecurity risks)

 

このリストだけを見ると、既に多く語られてきたテーマばかりであり、新鮮味には欠ける印象を受ける。Meekerだからこそ、何かしら新たなトレンドを提示してくれると期待したのだが……。もっとも、AIが本格的に商用フェーズに入ってからまだ2年足らずであることを考えれば、見解や予測が似通うのも当然かもしれない。

とはいえ、このレポートには重要な価値がある。AIの急速な進展を体系的に整理し直し、膨大なデータと図表を通じてその意味を可視化している点は、かつてのInternet Trends Reportの再来とも言えるだろう。

 

旅行業界への7つの視点の中で、最も気になったのは「4. 支配的な立場にある主要OTA?」である。Meekerは、大手OTAの優位性について次のようなことを述べている――「豊富な在庫、信頼性の高い顧客基盤、長年にわたる効率的な運用と高いコンバージョン実績、さらに自社AIエージェントの先行開発。これらが、AI時代においても彼らの優位性を支える」。

 

しかし、見出しに「?」が付されている点を見逃してはならない。このクエッションマークが示すのは、その支配的地位が未来永劫続くとは限らないという含意だ。AIエージェントを軸とした新興プレイヤーが台頭する中で、いかに巨大なOTAといえども、市場シェアを侵食され、中長期的には主導権を失うリスクがある ―― Meekerはそうした可能性も示唆している。

 

これは、先週取り上げた「4. 旅行業界、エージェンティック・コマース準備整っているか」と通底する視点でもある。誰がAI時代の「旅行の入り口」を握るのか。支配構造が再構築されようとしている今、その問いがますます重要になってきている。

 

「旅行の入り口」とは、まさに 「旅行の起点=ファネルの最上部(Top of Funnel, TOFU)」 にあたる 「旅への誘い」や「インスピレーション」の段階 を指す。SNS、ブログ、ガイドブック、友人の話などがこれまでの「入り口」だったが、 AIエージェントが、この位置を占め始めているのが現在の転換点である。これまで「入り口」をマネタイズするのが極めて難しいとされてきたが、生成AIの登場によって、この状況がガラッと変わるかもしれない。

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