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2025年10月第4週の編集人コメント

 

以下の3つについてコメントしたい。

7. Google、Google MapsにGemini API導入 

8. AI新ゲートキーパー、Booking.comとExpediaの将来旅行ハイジャック方法

16. 米国プロパティマネージャー60%、将来不安なるも収益増加予測

 

 

7. Google、Google MapsにGemini API導入

Googleは、AI搭載のGemini APIにGoogle Maps機能を統合した。これにより開発者は、2億5,000万件以上の地点データを活用し、位置情報に基づく高度なAIアプリを構築できるようになる。GeminiとGoogle Mapsを連携させることで、営業時間・住所・評価などのリアルタイム情報を自然言語で取得でき、Google Searchとの併用によって回答精度も大幅に向上する。

旅行業界関係者からは歓迎の声が多い。Inspire LimitlessのMarc Mekki氏は「Googleが旅行発見・計画のためのAIオペレーティングシステムを構築している」と述べ、MagpieのChristian Watts氏は「Google Mapsは目的地における支配的存在」と指摘。TourpreneurのPeter Syme氏も「Geminiはユーザーの意図や行動を推測できるため、旅行分野で圧倒的優位に立つ」と評価している。

この発表は、OpenAIによるChatGPTのアプリ内アプリ機能(ExpediaやBooking.comが参加)や、ExpediaとPerplexityによるAIブラウザ「Comet」の発表など、旅行×AIの競争が加速する中での動きである。

Gemini APIへのGoogle Maps統合により、Googleが旅行分野で優位に立つのは確かだ。Mapsの2億5,000万件を超える膨大な地理空間データを“Grounding”として活用できる点は、他社にない強みといえる。
ただし、「旅行業界のあらゆる用途」や「ユーザー体験のすべて」において圧倒的に勝っていると断言するには、まだ十分なエビデンスは揃っていないだろう。

 

8. AI新ゲートキーパー、Booking.comとExpediaの将来旅行ハイジャック方法

AI時代の新たな“ゲートキーパー”として、Booking.comとExpediaが旅行業界の主導権を握りつつある。
OpenAIのアプリマーケット開始直後、この2社はChatGPT内に自社機能を統合し、旅行者の検索・比較・予約といったプロセス全体にAIを通じて入り込んでいる。これにより、独立系ホテルはAI経由でゲストへ直接リーチできず、再び手数料を支払って自社顧客へアクセスする構造が再現される懸念がある。

EUのデジタル市場法(DMA)は、GoogleやMetaなど既存の「ゲートキーパー企業」を規制しているが、ChatGPTやGemini、Perplexityといった独立AIアシスタントは対象外である。この抜け穴が放置されれば、少数のAIプラットフォームが旅行流通を独占する可能性が高い。

著者は、

  • AIアシスタントにもDMAと同等の規制を拡張し、

  • ホテルや事業者が、公平に掲載される仕組み(透明な順位表示・データアクセス・切替の自由)を義務化すべきだと主張している。

結論として、「誰がAIのインターフェースを支配するか」が旅行産業の未来を決める。「今行動しなければ、ホテルは再び他社プラットフォームの“借家人”となる」と警鐘を鳴らしている。

 

この記事は冒頭で、「BKNGやEXPEなどの大手グローバルOTAがAI時代においても旅行業界の主導権を握りつつある」と述べている。
従来の記事の多くが、AI時代にはチャネルの多様化や直販の増加によって「OTAの覇権が揺らぐ」と論じてきたのに対し、本稿はそれとは逆の“OTA強者論”を展開している。

筆者は、ホテル・リゾート業界向けにゲストの旅程(guest journey)をホテル自身が直接掌握できるようにするAIインフラ/ダイレクト予約支援プラットフォームを提供するAgentic Hospitalityの共同創立者でありチーフAI オフィサーで、DMAのような規制をAIアシスタントにも適用してほしい立場にある。
そのため、意図的に“OTA優位論”を強調している可能性も否定できない。

 

16. 米国プロパティマネージャー60%、将来不安なるも収益増加予測

米国の短期レンタル(STR)業界では、人手不足や収益圧力など課題が続く中、約60%の物件管理者が2026年に収益の緩やかな成長を見込むと回答した。
Key Dataの調査(約43,000物件・約250名対象)によると、主要課題は運営・人材(73%)と規制対応(43%)であり、特に許可制度の厳格化や宿泊税の上昇が懸念されている。

管理者の優先事項は①運営効率、②マーケティング、③顧客体験、④ポートフォリオ管理、⑤テクノロジーの順であり、95%がPMS(物件管理システム)を導入している。PMSは運営の「中核的インフラ」となっている。

OTA(オンライン旅行代理店)への依存は、「横ばい」が67%、「減らす」が19%、「増やす」が11%。依存度は依然として高いが、拡大傾向は見られない。主要利用先はVrbo(97%)、Airbnb(90%)、Booking.com(73%)。
業界全体としては「拡大より効率化」を重視し、厳しい環境下でも持続的で安定した成長を目指している。

気になったのはOTA依存の部分である。報告書では「OTAへの依存は高いが拡大していない」としつつも、「11%が依存を増やす」としている点から、依然としてOTAの影響力は強いと読める。
一方で「直接予約への多様化が徐々に進んでいる」とも記されており、これは一見矛盾しているように見える。
しかし実際には、OTA依存と直販拡大は対立ではなく“両立期”にあると捉えるのが正確だろう。
OTAは依然として主要チャネルでありながら、AIとデータ分析の活用によって直販チャネルが少しずつ成長している。
現在の流れは“脱OTA”ではなく、“マルチチャネル化”の初期段階にあると見るのが妥当だ。

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