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2025年6月第4週の編集人コメント

「8. ホテル、価格コントロールで二次的OTAに取り組む」では、セカンダリーOTAによる卸売レートの横流し(いわゆる「2次おろし」)が、ホテルの価格コントロールを弱めていることが指摘されている。その対策として「自社チャネルでの予約比率を50%以上に高めること」が有効とされるが、直販比率の向上は容易ではない。最大手のMarriottですら、自社予約比率は約40%程度にとどまっているとされる。
結局のところ、こうした価格の逸脱は需給の強弱によって左右される側面が大きい。Parity Clause(価格同一性条項)についても、たとえ欧州で規制が進んでいるとしても、実際の価格主導権は集客力とブランド力を持つ側に残り続けるのだろう。

 

「18. オンライン旅行ベテランたち、旅行技術進化とその次を語る

オンライン旅行業界のベテランたちは、AIがもたらす変化はインターネットの登場以上に大きなインパクトを与えると語っている。技術は進化を続けているが、消費者が求める「信頼」や「記憶に残る体験」といった本質的な価値は変わらないという点にも共通の認識があった。

 

なかでも印象深かったのは、eDreamsの共同創業者で元CMOのMauricio Prietoの発言である。彼はこう述べている。

「たとえばAmazonのように、トラックや物流インフラといった物理的ネットワークを持つ企業は、完全にデジタルなビジネスに比べて模倣されにくい。彼らには強固な“堀”がある。Amazonが築いた極めて複雑なインフラは、そう簡単には代替できない。一方で、デジタルに特化したサービスは、新たなツールが登場した瞬間に置き換えられるリスクを常に抱えている。」

 

実際、Amazonは他社が容易に真似できない強力なロジスティクス・インフラを武器にし、それが競争優位の源泉となっている。一方で、OTAにはそのような物理的資産はない。これまでは、膨大な在庫情報を集約・比較・提示する機能が旅行流通における中核的な強みだった。しかし、AI時代に入り、その機能すらプラットフォームや新興ツールに代替されつつあり、従来の強みがどこまで通用するのか、不安は拭えない。

 

物理的インフラを持たず、デジタル領域での勝負を強いられる以上、OTAは新たな技術による代替リスクと常に向き合わなければならない。この現実を前提にすれば、差別化の鍵は「効率」や「自動化」だけでなく、「信頼」や「人間的な接点」にあるといえる。Prietoの言う“摩擦” —— たとえば丁寧な相談対応やパーソナライズされたサポート —— は、むしろ顧客との関係性を深める無形の資産として機能する可能性がある。

つまり、旅行業においても、すべての摩擦を排除するのではなく、戦略的に “残すべき摩擦” を見極めることが、AI時代における持続的な競争力を生み出す鍵となると言っている。

 

 

「24. 旅行AI脆弱、敵対的トレーニングで修正できるか?

旅行業界におけるAIは依然として脆弱であり、その対策として「敵対的学習(adversarial training)」の導入が不可欠だと本記事は主張している。旅行は例外や特殊ケースに満ちた複雑な領域であり、従来のAIでは幻覚(hallucination)が生じやすい。医療や金融といった他業界ではすでにこの手法の導入が進んでいる一方で、旅行業界は対応が遅れている。

敵対的学習とは、AIにあえて例外的で判断の難しいケースを与えることで、モデルの耐性と信頼性を高める訓練方法であり、旅行のような不確実性の高い環境に特に適している。精度と信頼性の高いAIを実現するには、単にモデルを大型化するのではなく、こうした訓練手法を戦略的に取り入れることが重要だと結論づけている。

 

本記事は、敵対的学習の基本を理解するうえで有益である一方で、それ自体が提示する情報の正確性についても、なお慎重な見極めが必要だと感じさせられた。

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